ジュゴンについてのUNEP/CMSプレス・リリース

 

最後の人魚ジュゴンを救う国際的努力

国連会議により海牛を保護するための新たな戦略が採択された

 

ボン・アブダビ、2010107日:人魚伝説は遠方からジュゴンの泳ぐ姿を見たことから発していると信じられている。現在、この一見不器用で一般的に海牛として知られている海生哺乳類の残存個体群は深刻な危機的状況にあり、今後40年のうちに絶滅するおそれもあるとされている。今週アビダブで、UNEP/CMS(UNEP/Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals 国連環境計画/移動性野生動物種の保全に関する条約)主催のジュゴンについての会議が開かれ、各国政府、国際組織、NGO、それに専門家たちが世界で唯一海に住む草食性哺乳類である彼らの保護問題解決について協議した。

 

CMS事務官Elizabeth Maruma Mrema によれば、「CMSジュゴン条約締約国に対して、地域漁業者が利用できる革新的な用具やインセンティブが提起され、これにより、この希少な種が絶滅から救われる可能性もある」という。ジュゴンを脅かす危機を和らげるために、あらたに考案されたもののなかには、危険な刺し網漁法に替わる漁法を提案して錯誤捕獲を避け、彼らの死亡率を減少させるために漁業者を動機づける方法も含まれる。2008年に行われた評価によれば、ジュゴンはマルディブ、モーリシャスおよび台湾では絶滅し、その他の地域でも生息域の少なくとも3分の1で減少しつつある。しかしながら、現在、ジュゴンについての情報はあまりにも少なく、彼らの絶滅状況について完全に評価することも困難である。柔和な海牛にとっての最大の危機は人間活動に発するものである。密漁、地域漁業者による非持続的捕獲、船舶との接触による甚大な損傷、海草の喪失はジュゴンの生息域の危機的な減少を加速し彼らの絶滅の危機をもたらしている。

 

刺し網使用は、ジュゴンが漁具にからまる事故を起こし重大な危機をもたらしている。漁業がますます商業的になるなかで、混獲はこれまで以上に頻度を増し深刻なものになるだろう。もうひとつの最大の危機として、捕獲されたジュゴンが非持続的な形で直接消費されることがあげられる。国によっては伝統に従った形での消費のためにジュゴンが合法的に捕獲されていることもあることを付言しておく。

 

人為的な原因によるリスクはジュゴンの生殖率が低いことによってさらに深刻さを増す。生息域の喪失、病気、捕獲または魚網にからまって溺れるなどの原因で成熟個体の生存率が少し減るだけで、劇的な個体数減少が引き起こされることがある。ジュゴンを擁する国々の間での協力関係を開始し、それを強めることは、このユニークな海生哺乳類の生存を確保するために不可欠である。太平洋、南アジアおよびアラブ首長国連合など20カ国の漁業者についての調査によるデータが利用可能であり、それを調べることによりジュゴンの移動ルートの一部における漁業による生存への危機について評価されることになっている。このデータは地理的情報に組み込まれ、問題スポットや残存個体群の生息地域の特定、海草コロニーなどジュゴンにとっての重要な生息地を認識するために使われる。これらの調査に基づくデータは、ジュゴンの生息が特に脅かされている地域についての情報を補充し地域共同体によるこれら危機的生息域の保全努力を支援するものになるだろう。2011年には、調査範囲としてあらたに東部アフリカ、インド洋西部および北西部、それに南アジア地域も含まれることになる。

 

良好なジュゴンの生息域および繁殖・採餌域を保全するための、他の解決策として海洋保護区設定など空間的閉鎖や漁法制限など時間的抑制によるものもある。漁業者たちによる保全努力に報いる奨励策として、新しい漁船やラインフィッシング用具を購入するためのローン提供についても、漁村の生活状況改善策や教育に係ることがらと併せて論議された。会議の結論として海洋生物多様性の増強のために資する保全戦略が多様な保全策を組み合わせて策定されることが必要であるとされた。これら保全策は、ジュゴン以外にもクジラ、イルカ、ウミガメそれに沿岸性のサメなどが漁具にからまる事故を減少させるためにも必要である。会議に参加した諸国政府は、インセンティブに基づくこれらあらたな諸方策で他の海生生物種保全にとっても有意義なものを実施するための試験的プロジェクトを策定する。ジュゴンの危機に対処するためには学際的な努力が必要である。本会議で承認された保全戦略実現のためにはジュゴン生態学それに海洋資源管理、沿岸開発、持続的開発に係る理論分野、社会学、経済学、法学など関係する専門分野の科学者たちによる専門知識と指導が必要である。

 

会議では、バーレーン、ベラウ、セイシェルズ、バヌアツおよびイエーメンもジュゴン保護条約に署名し、締約国の数は18になった。締約国の数は近くさらに増えることが見込まれている。条約は、このユニークな海生哺乳類が末永く生存できるために各国および諸地域が協力して保全策を開発し実行することを可能にするために作られている。

 

メディア編集者のための注:移動性野生動物不種の保全に係る条約(UNEP/CMS)はボン条約としても知られ、世界各地の絶滅の危機にひんする多様な移動性野生動物種の保全を目的とし、そのために協議、条約実施、また行動計画策定を行っている。現在、条約締約国の数は114である。(www.cms.int)(訳注:日本はクジラが保全対象種に含まれていることなどから締約国になっていない。)アブダビのUNEP/CMSオフィスは同国の環境庁オフィスと同じ場所にある。同オフィスの目的はジュゴンとアフリカおよびユーラシアの移動性猛禽類の保全条約の実施にある。CMSジュゴン協定は2007年に13カ国によって締結された。当初の締結国はオーストラリア、コモロス、エリトリア、フランス、インド、ケニア、マダガスカル、ミャンマー、パプアニューギニア、フィリッピン、ソロモン諸島、タンザニア、アラブ首長国連合である。

 

連絡先:Veronika Lenarz, UNEP/CMS Secretariat, tel: +49 (0) 228 815 2409, e-mail:

vlenarz@cms.int

Donna Kwan, UNEP/CMS Office-Abu Dhabi, tel: +971 56 6987830, e-mail: dkwan@cms.int