勧告2.72
沖縄島およびその周辺地域におけるジュゴン(Dugong dugon), ノグチゲラ(Sapheopipo noguchii)ならびにヤンバルクイナ(Gallirallus Okinawa)の保全


ジュゴン(Dugong dugon)が世界的に見て絶滅のおそれのある種であることに注目し、(ジュゴンは、IUCNレッドリスト2000年版においてカテゴリーA1の絶滅危惧U類に分類されている。)

さらに、沖縄島周辺の地域個体群についても絶滅のおそれがある(CR D1またはCR C2b (日本哺乳類学会1997年))こと、またこの種が日本では過去30年間にわたり沖縄島に沿った地域でのみ生息が確認されていることに注目し、

また、ジュゴンが米国の「絶滅の危機に瀕した種の法」の対象であることにも注目し、

これまで一年を通じてジュゴンが確認されているのが沖縄島の中部および北部の東海岸だけであること、それゆえこの小さく孤立した生息域が個体数の少ない沖縄のジュゴン保全にとって大変重要であることを認識し、

このジュゴン生息域の中心部とその周辺の陸域が、米国海兵隊軍事空港の代替建設候補地(現在の普天間基地の移転先)に含まれていることを理解し、

もしこの地域において空港建設が行われるならば、ジュゴンの重要な休息・採食地である辺野古沿岸のサンゴ礁や藻場が破壊されるおそれがあること、また数の少ない地域個体群の生存に対して重大な脅威となる可能性を懸念し、

ジュゴン個体群がその生存をゆだねるサンゴ礁や藻場を含む陸上および海域の生物の生息域に対して建設事業が引き起こしうる影響を明確にするために自主的な環境影響評価を実施すると日本国政府が最近決定したことを支持し、

ノグチゲラ(Sapheopipo noguchii)(絶滅危惧IA類, IUCN 2000年)やヤンバルクイナ(Gallirallus Okinawa)(絶滅危惧IB類, IUCN 2000年)など、国際的に関心がもたれている数多くの固有種や固有亜種が生息することから、沖縄北部のやんばる地域の亜熱帯林が生物多様性の保全にとって特に重要であることに注目し、

やんばる地域に生息する固有種や固有亜種の多くが、生息地の荒廃をもたらすダム建設、林道建設、森林伐採、移入種の持込みによって生存を脅かされていることを懸念し、

米軍訓練施設(米国海兵隊ジャングル戦闘訓練センター)が、民間による開発や立入りを禁止していたがために、野生生物の避難所となってきたことに注目し、

この米軍訓練施設の半分が近い将来日本に返還される決定がなされたこと、日本国政府がその地域を森林生態系保護地域と国立公園に指定する可能性があることを歓迎し、

米国海兵隊の管理下にとどまる地域での、7つの軍用ヘリパッドとそれらを結ぶ道路の建設が、残された最も重要な自然林地域における固有種の生息地を荒廃させるおそれがあることを懸念し、

さらに、当該地域において頻繁に行われる軍事演習が、ノグチゲラやヤンバルクイナなどの希少種の障害となること、またその絶滅の可能性を高めることを懸念し、

第二回世界保全会議(アンマン、ヨルダン、2000年10月4-11日)は、

1. 日本国政府に対して以下の事項を強く要請する;
(a) ジュゴン生息域内およびその周辺地域における軍事施設建設に関連した自主的な環境影響評価をできる限り早期に実施・完了すること
(b) ジュゴン個体数の更なる減少を食い止め、その回復を助ける保全対策をできる限り早期に実施すること
(c) やんばるの絶滅のおそれのある種と沖縄のジュゴン個体群に対する生物多様性保全計画をできる限り早期に準備し、これらの種やその生息地に関する詳細な調査を実施すること
(d) やんばるの世界遺産地域へのノミネートを検討すること
2.アメリカ合衆国政府に対して、日本国政府の要請に応じて自主的環境影響評価に協力することを強く要請する
3. 日本国政府およびアメリカ合衆国政府に対して、以下の事項を強く要請する
(a) 自主的環境影響評価の結果を考慮し、それに基づいてジュゴン個体群の生存を確かなものとするために役立つ適切な対策を講じること
(b) 上記1(c)で言及された調査を考慮しながら、計画されている軍事施設や訓練地域の建設による環境影響を評価し、それに基づいてノグチゲラとヤンバルクイナの存続を確かなものとするために役立つ適切な対策を講じること

日本語翻訳:古田尚也(2003年8月21日)